古典落語「富久(とみきゅう)」
【あらすじ】
酒のせいで贔屓(ひいき)の旦那をしくじり、途方に暮れていた幇間の久蔵。隠居仕事に富の札を売る六兵衛に出くわして、なけなしの一分で一枚買うと神棚に札をしまい、酒を飲んで寝てしまった。夜中に半鐘が鳴る。「久さん火事だ、芝見当だぜ。こういう時に駆け付けると詫びがかなうものだ、行ってみろ」ってんで芝まで駆け付けると「久蔵か、気にかけてくれればこそ来てくれた。今までのことは許す、出入りをかなえるぞ」。
「何かお手伝いを」と久蔵は火事見舞いの帳面付けに張り切る。やがて「旦那、ここにお酒が二本、一本は燗がつけてあります。あたしは浅草からここまで駆けて来て、のどが渇いて」「お前は酒でしくじったんだよ、一盃だけにしておきな」。久蔵が寝てしまうとまた半鐘。今度は浅草方面だというので取って返すと家は焼けていて、久蔵は旦那のところへ居候することになった。
ある日、人形町あたりをぶらぶらしていると、人が大勢どこかへ行く。「皆さんどこへ」「杉の森稲荷の富だ」「あっそうだ」と思い出し、行ってみると「本日の突き止め、鶴の千五百番」。
千両富に当たっていた。札と引き替えだといわれ、しょんぼりしていると鳶頭に呼び止められる。火事の時に神棚を運び出してくれたというので付いて行くと富札は無事だった。「なに、富に当たった。そりゃよかった、この暮れはいいな」「はい、大神宮様のお陰で近所のお払いができます」